トトオです。
今回は、
ソフトバレエ、
ビクター時代の二作目、
『INCUBATE』のレビューです。
前回はこちらです。
この記事は、
以下の方にオススメです。
邦楽のエレポップの最高峰を聴きたい
INCUBATE概要
メロディメイカー森岡賢の才能爆発
藤井麻輝作品の完成形
1993年発表の、
通算五枚目の作品です。
前作からはほぼ一年が経過しています。
メンバーは変わらず三人です。
作曲は、
藤井麻輝 : 5
となり、全11曲です。
作詞は基本遠藤氏ですが、
一曲だけ、藤井氏作詞作曲が含まれます。
ジャケットがまず目を引きます。
ポージングを決めた遠藤亮一は、
更に一皮向けた感じですね。
今回は、
彼らのセルフイメージを、
ブラッシュアップさせたような、
攻めたデザインです。
今見ても新鮮さを感じるのが凄いです。
前作が黒魔導師なら、
今作は白魔導師といった感じでしょうか。
今作は、曲順がポイントです。
4-6 藤井 三曲
7-8 森岡 二曲
9-10 藤井 二曲
11 森岡 一曲
となっており、
森岡氏・藤井氏が、
交互に同曲ずつ並べて、
最後に森岡氏の一曲で締めます。
このバランスが絶妙で、
ソフトバレエとはなんぞや、
というのが、この一枚で体現されています。
そして、私が個人的に注目したいのは、
森岡賢作品の楽曲の素晴らしさです。
ソフトバレエのポップさや、
キャッチーさは、森岡氏によるところが
とても大きいですが、
今作の彼の楽曲は、過去最高の完成度です。
楽曲レビュー
PARADE (遠藤遼一 / 森岡賢)
最初の三曲は、
森岡氏作曲ですが、
一曲目『PARADE』を、
初めて聴いた時は、
冒頭だけで、ああこれは絶対傑作だな、
と感じました。
まさにタイトル通りの、
行進曲のような雰囲気で、
優雅にアルバムの幕開けを演出します。
前作がかなり暗黒で、
挑戦的な作風だったので、
ファンにとって、
このオープニングは、
ある種反則だったのではないでしょうか。
オタクっぽい話で恐縮ですが、
この曲を聴くと、
かつてセガサターンで発売された、
名作シューティング、
『レイディアント・シルバーガン』を、
思い出します。
ソフトバレエメンバーは、
畑違いの、
映画やゲームなどへの音楽の提供は、
どのくらいあったのでしょうか。
JEWEL SNAKE (遠藤遼一 / 森岡賢)
続く二曲目は、
エレポップ感満載の森岡曲です。
こういう曲調は、
初期のデペッシュ・モードや、
ソフト・セルを思い出します。
この時期のソフバは、
アーティストとしての個性を、
完全に確立していて、
自分たちの、
カラーの一つとして馴染んでいます。
この曲は、
特に歌詞と曲の調和が素晴らしいです。
WHITE SHAMAN (遠藤遼一 / 森岡賢)
来ました、『ホワイト・シャーマン』。
個人的には、
『BODY TO BODY』に並ぶ、
ソフバの看板曲だと思います。
ジャケの遠藤氏とこの曲の雰囲気が、
めちゃハマります。
歌謡曲にすら聴こえる、
ポップで耳触りの良い曲です。
ユニークな歌詞で、
独特の世界観を表現しています。
この歌詞で格好良く歌い切るというのは、
相当な表現力だと思います。
並のアーティストだと、
リスナーはしらけてしまうのでは、
ないでしょうか。
TRANSCODE (藤井麻輝 / 藤井麻輝)
このアルバム初めての藤井氏曲です。
作詞・作曲共に藤井氏ですが、
らしさ全開の一曲です。
不穏なSEの上に、
フランス語?での語りという、
暗黒・シュールな一品です。
冒頭の森岡三曲の流れをブチ切って、
いきなり別世界に誘います。
DEEP-SETS (遠藤遼一 / 藤井麻輝)
続く藤井氏二曲目は、
一転、メロウなバラード風の曲です。
この曲がまた素晴らしい。
歌メロもそうですが、
各楽器の音がそれぞれ際立っています
ライブ感溢れる、
バンドっぽいアレンジです。
私がそういう世代なので、
こう感じるのかもしれませんが、
この曲は日本のビジュアル形の、
クラシックといえるような雰囲気です。
LUNA SEAに、
こんな曲ありませんでしたっけ?
この三人の生楽器だけの作品があれば、
聴いてみたかったですね。
(あったらすいません)
INFANTILE VICE (遠藤遼一 / 藤井麻輝)
藤井氏三連発の締めです。
これまた雰囲気がガラッとわります。
かなりダウナーです。
前作にもあった、
呪文っぽい、抑え気味の歌唱です。
バックのアコギや、
SEがとても凝っています。
どういう発想をすれば、
こんな曲が書けるのでしょうか。
ノイズの裏に聴こえる、
楽器の音の凝り方が尋常じゃないですね。
なにか、中世の舞踏会を彷彿とさせる、
ゴシックっぽいメロディが、
差し込まれています。
他曲と全く異なるカラーなのに、
違和感なくサラッと聴かせるのが凄いです。
PHASE (遠藤遼一 / 森岡賢)
ここから森岡ターンに戻ります。
落ち着いたバラードです。
ギターのアルペジオが素敵です。
遠藤氏の歌唱力が際立ちますね。
そもそも、地声が格好良いので、
力を抜いた風な歌唱でも、
とても個性的です。
個人的な感想ですが、
近年の若手ミュージシャンで、
こういう個性を持ったボーカルが、
少ない印象です。
上手い人はたくさんいると思うのですが、
その人にしかない、
味と言えるようなものを持っている人は、
昔の方が多かったですね。
TM NETWORKの宇都宮隆あたりも、
まさにそうです。
上手いだけではなく、
彼にしか出せない声、
という点が重要です。
ENGAGING UNIVERSE (遠藤遼一 / 森岡賢)
来ました、『エンゲージング・ユニバース』。
この曲がまた良いんです。
ポップアンドキャッチーで、
何度も聴きたくなる一品です。
コーラスもかわいらしく、
なにか暖かい気持ちになります。
結婚式の披露宴で使えそうなくらい、
優しい雰囲気の曲です。
シングルカットだったのも納得ですが、
どのくらい売れたのでしょう。
この年の、シングル売上一位は、
CHAGE & ASKAの『YAH YAH YAH』で、
240万枚ですか…。
世の中どうなるかわからないもんですね。
同じ時代の曲とは思えません。
(私はチャゲアス好きです)
PILED HIGHER DEEPER (遠藤遼一 / 藤井麻輝)
ラストの藤井氏二連続の一曲目です。
またも、
ダークサイドに引きずり込まれますが、
ノリの良い曲です。
前作の『Threshold』の路線です。
音の使い方とかムードが、
やはりドイツあたりの、
インダストリアルメタル風です。
サビのメロや演奏は、
ある種パンクバンドっぽい感じで、
いわゆるオルタナティブロックに、
通じるところもあります。
全編英語詞というのもありますが、
オルタナ風アレンジで、
よりバンドっぽい演奏にすれば、
アメリカあたりで受けそうに思います。
いや、やっぱり欧州かな…。
GENE SETS (遠藤遼一 / 藤井麻輝)
本アルバム最後の藤井氏曲です。
最後にとんでもないのを、
ぶちこんできました。
音だけで描かれた一遍の映画のような、
驚異的な表現力の一曲です。
前作にも、『Vietnam?』という、
凄い曲がありましたが、
更にブラッシュアップされています。
ノイズの入れ方が格好良く、
初期のAphex Twinに、
通じるものを感じました。
(このPV最高なので必ず見てください)
この曲こそ、本当の意味で、
プログレッシヴ・ロックと呼ばれて、
然るべきではないでしょうか。
ピンク・フロイドや、
キング・クリムゾンと、
比較されるべきかもしれません。
(そう考えると、平沢進と通じますが)
MARBLE (遠藤遼一 / 森岡賢)
最後は、森岡氏曲で終了です。
10曲目で、アルバムを締めても、
違和感ない構成でしたが、
最後にまた凄い一曲を差し込んでいます。
遅めのテンポのバラードですが、
遠藤遼一の歌詞と歌唱力が凄まじいです。
こういうスローな曲の方が、
元々遠藤氏の歌唱法と、
相性が良いのかもしれません。
途中のホーンもとても美しく、
ジャズっぽい鍵盤の演奏もあり、
大人っぽい落ち着いた雰囲気です。
これだけ色々な曲をぶち込んで、
最後この曲で締めるあたりが、
さすがは、
円熟期のソフトバレエという感じがします。
『Million Mirrors』を通過したからこそ、
たどり着いた境地でしょう。
これを聴くと、
別記事でも紹介した、
アメリカのミクスチャーバンド、
フェイス・ノー・モアの、
名盤『Real Thing』を思い出します。
あのアルバムも、
本編はやりたい放題やり尽くして、
最後は落ち着いたジャズっぽい曲で、
締めていました。
自分たちの作品を、
俯瞰で見下ろしているような、
そんな視点の高さに、
共通点を感じます。
オススメ曲
これで全ての楽曲が終了しました。
古今東西見渡しても、
一枚の作品に、
これほど色々なカラーの楽曲を、
詰め込んだ作品は、
そうそうないのではないでしょうか。
『WHITE SHAMAN』
『ENGAGING UNIVERSE』
『GENE SETS』
『MARBLE』
終わりに
森岡賢・藤井麻輝という、
強烈な個性を持ったクリエイターを、
稀代のシンガーの遠藤亮一という、
フィルターを通して、
ひとつにまとめあげたもの、
それがソフトバレエだったのだと、
改めて感じました。
前回レビューで、
『Million Mirrors』が、
最高傑作かもしれない、と書きました。
三人の作り上げた芸術作品としては、
『Million Mirrors』が、
最高傑作かもしれません。
しかし、
ソフトバレエの作り上げた、
商業作品としての最高傑作は、
この『Incubate』ではないでしょうか。
この作品は、
前作を経たからこそ培われた、
孤高の表現力がベースになっています。
当時の音楽シーンに向けて、
アーティスト・ソフトバレエが、
そのプロフェショナルさを証明した、
彼らの活動の一つの完成形だったと、
思います。
次作は、
解散(その後一度復活しますが)前の、
最後の作品です。
ソフトバレエは、
作品の密度が濃いので、
レビュー一本書くのに、
普段の倍は労力をかけています。
そのため、
レビューの間隔が他バンドに比べて、
長くなっていることは、
ご容赦ください。
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