トトオです。
今回は、メガデス通算9作目のアルバム、『ワールド・ニーズ・ア・ヒーロー』をレビューします。
前回の記事はこちらです。
本作のポイントはこちらです。
ポイント
マーティ脱退!素うどん化したメガデス
- 『The World Needs a Hero(ワールド・ニーズ・ア・ヒーロー)』(2001年発表)
- 全曲レビュー
- #1 ディスコネクト – Disconnect – 5:20
- #2 ワールド・ニーズ・ア・ヒーロー – The World Needs a Hero – 3:52
- #3 モト・サイコ – Moto Psycho – 3:06
- #4 サウザンド・タイムス・グッドバイ – 1000 Times Goodbye – 6:25
- #5 バーニング・ブリッジズ – Burning Bridges – 5:20
- #6 プロミシズ – Promises – 4:26
- #7 レシピ・フォー・ヘイト…ウォーホース – Recipe for Hate… Warhorse – 5:19
- #8 ルージング・マイ・センシズ – Losing My Senses – 4:40
- #9 ドレッド・アンド・ザ・フュージティヴ・マインド – Dread and the Fugitive Mind – 4:25
- #10 サイレント・スコーン – Silent Scorn – 1:43
- #11 リターン・トゥ・ハンガー – Return to Hangar – 3:59
- #12 ホエン – When – 9:13
- ボーナストラック(日本盤)
- 採点
- 総評
- 終わりに
『The World Needs a Hero(ワールド・ニーズ・ア・ヒーロー)』(2001年発表)
結論
本作の結論を先に述べます。
ニックが抜け、マーティも抜け、長年バンドを支えた黄金期メンバーが不在の中、本作は制作されました。
その結果、楽曲のフォーマットだけは黄金期のスタイルを踏襲しながらも、中身は明らかなパワーダウンとなりました。
言うなれば、器だけは豪華に見えても、実際は具や薬味のない、素うどんのような作品と言えます。
(かけうどんも可)
概要
通算9作目のオリジナルアルバムです。
前作から2年後の、2001年5月に発表されました。
ついにマーティ脱退
賛否両論でも、どちらかというと「否」を巻き起こした前作『Risk』の発表後、ついにマーティが脱退しました。
『Risk』は素晴らしい作品でしたが、メガデスにこれを求める人は多くなかった、というのが悲しい現実でした。
また、マーティは『Risk』も中途半端な作品だと感じていたようですので、彼の脱退は必然だったと言えます。
ジミーとアルの新体制
すでにドラムは前作でジミーに入れ替わっていましたが、ギターもここでアル・ピトレリに入れ替わります。
アルは、サヴァタージでの活動が有名ですが、幅広いキャリアを重ねた凄腕ミュージシャンです。
(エイジアなんかにも参加していました)
しかし、結果的に、この二人が参加したメガデスの作品は、本作だけとなりました。
キャピトル離脱と初ベスト
ちなみに、本作発表前に、初のベスト盤が発表されています。
このベスト盤が、古巣のレーベル・キャピトルでの最終作となりました。
レーベルの求める方向性が、バンドの意向から大きく乖離していたことが、移籍の原因だったようです。
このベスト盤には、
Dread and the Fugitive Mind
という二曲の新曲が収録されていました。
『Dread – 』は、本作『The World Needs a Hero』にも収録されました。
(当時は『Kill – 』の方が好きでした)
ジャケット
いや・・・
このジャケット・・・
どうなんですか?
「これはないやろう」というのが、当時の感想です。
ムステインを突き破って出てくる演出はわからなくもないのです。
しかし、なんかムステインがニット的な服を着ているのが違和感で・・・。
(何を着ても変ですが)
やはり不評だったのか、リマスター盤のジャケットからは、ムステインは消えました。
(これはこれで・・・)
メガデス・メタリカ年表
本作は、前作『Risk』から2年弱で発表しており、インターバルとしては比較的短いです。
1999/8 Risk (MEGADETH)
2001/5 The World Needs a Hero (MEGADETH)
2003/6 St. Anger (METALLICA)
この間、メタリカにとっては、ジェイソンが抜けるという事件がありました。
やはりキャリア20年ともなると、どのバンドも色々あって当然ということでしょう。
リマスター比較
これまでの作品は、単なるリマスターではなく、リミックス作品でもあったので、オリジナルと内容が大きく異なりました。
本作以降は、リミックスではなく、単なるリマスターであるため、それほど大きな変化はありません。
そのため、本作以降は比較記事は書きません。
全曲レビュー
本作の特徴は、下記の三つです。
話題のブースト『Return to Hangar』
黄金期の残滓と呪縛
#1 ディスコネクト – Disconnect – 5:20
オープニングにも関わらず、地味な一曲です。
ここではっきりわかることは、ギターのディストーションにあまりエッジがなく、ベースとドラムは前作の延長線上でややマイルドなところです。
リフに、かつてのような強烈なフックはありません。
#2 ワールド・ニーズ・ア・ヒーロー – The World Needs a Hero – 3:52
タイトル曲だけに、気合が入ったアレンジです。
この曲でも明らかですが、ジミーはテクニカルで良い仕事をしています。
ニックのような強烈な個性はありませんが、丁寧且つ安定したプレイで貢献しています。
ギターソロがもう少しスリリングだったら・・・というところでしょうか。
#3 モト・サイコ – Moto Psycho – 3:06
前作に近いインダストリアルなフレーバーと、キャッチーなサビが格好良い曲です。
但し、本作は全体的に簡素なアレンジの楽曲が多いため、この曲だけやや浮いて聴こえます。
#4 サウザンド・タイムス・グッドバイ – 1000 Times Goodbye – 6:25
『Wake Up Dead』で登場した、ダイアナが再登場する楽曲です。
女性ボーカルと対話になっていて、これまでにない新趣向です。
地味ながらも渋いリフで、徐々に盛り上がる演出も良いです。
後半さらにもうひと展開くれば、「インテリクチュアルスラッシュメタル健在」と、言えたのではないでしょうか。
#5 バーニング・ブリッジズ – Burning Bridges – 5:20
本作でも一番良い曲です。
リフも歌メロも、メロウで格好良いです。
後半の疾走する展開は、2000年代後半の新生メガデス路線のベースのようにも感じられます。
このくらいのクオリティの曲がもっとあれば、本作の印象は違ったでしょう。
やや、アリス・イン・チェインズぽいな、と言うのは野暮でしょうか。
#6 プロミシズ – Promises – 4:26
オーケストレーションも入ったバラードです。
キャッチーで耳に残るサビが印象的です。
脂が乗ったムステインの歌も素晴らしく、これこそマーティが目指した方向性の一つかもしれません。
#7 レシピ・フォー・ヘイト…ウォーホース – Recipe for Hate… Warhorse – 5:19
アルもクレジットされた一曲です。
ムステインとアルのギターバトルが楽しめます。
アルのメガデスでのプレイは、結果的に本作のみとなりましたが、文句なく上手いです。
但し、スリリングさには欠け、無難なプレイに聴こえてしまうのが、マーティ後任の辛いところです。
#8 ルージング・マイ・センシズ – Losing My Senses – 4:40
リフが面白くキャッチーな一曲です。
しかし、あまり耳に残らず、聴き流してしまいます。
#9 ドレッド・アンド・ザ・フュージティヴ・マインド – Dread and the Fugitive Mind – 4:25
ベストに先行で入っていた一曲です。
やはり気合が入っていて、この曲だけ飛び抜けてクオリティが高いです。
低音が太くヘヴィで、他の曲よりもエッジが立った鋭いアレンジです。
後半のギターソロも格好良く、十分メガデスのクラシックラインナップにも並ぶ出来でしょう。
ちなみに映像は、この時期に発表されたライブビデオのものです。
私はこのDVDを持っているのですが、非常に素晴らしい出来です。
このラインナップのパフォーマンスレベルの高さを、改めて感じます。
#10 サイレント・スコーン – Silent Scorn – 1:43
次曲『Return to Hangar』のイントロのような、短いインストです。
トランペットとマーチングドラムが、めちゃくちゃ渋いです。
もっと発展させても良いアレンジで、少々もったいないです。
#11 リターン・トゥ・ハンガー – Return to Hangar – 3:59
発売前の期待値をブーストさせた、『Hangar 18』の続編です。
あの名曲の続編が収録されるということで、当時大々的に宣伝していました。
かなり期待してしまっていただけに、これを聴いた時のガッカリ感は大きかったです。
リフ、歌詞、歌メロを『Hangar 18』から流用して構築されています。
後半にはちゃんとギターバトルもあります。
しかし、これを聴いた時は、
「もうマーティはいない」
という、強烈な印象だけが残りました。
但し、もしマーティが在籍していたとしても、続編を作ることに、おそらく乗り気ではなかったでしょう。
#12 ホエン – When – 9:13
オーラスです。
歌ではなく、語りが中盤まで続きます。
中盤からは、ミドルテンポのグルーヴィーな曲調です。
前作『Risk』のラストは、短くても二曲を組曲とした構成でしたが、この曲はあくまで一曲で仕上げています。
耳に残るリフもほとんどなく、ギターソロは速いものの、目新しさがありません。
90年代前半のギラギラ鋭かったメガデスは、遠い昔のことのようです。
ボーナストラック(日本盤)
#3 カミング・ホーム – Coming Home – 2:35
日本盤では三曲目に収録されました。
カントリー調の曲で渋いです。
前作『Risk』(通称「メガジョヴィ」)を作り上げた後ですので、この程度の新路線に驚きはありません。
ムステインのボーカルは上手いです。
しかし、オジーレベルの哀愁を漂わせるには、当時のムステインは若すぎたかもしれません。
採点
1位『Burning Bridges』
2位『1000 Times Goodbye』
3位『Promisese』
4位『Dread and the Fugitive Mind』
総評
最大の問題作
ドラムもギターも代わり、新体制で制作された本作ですが、メガデス史上最大の問題作と言えます。
90年代の黄金ラインナップによるフォーマットを踏襲しながらも、肝心の屋台骨メンバー不在で作り上げました。
結果、ムステイン主導の作品として仕上がりましたが、それまでのスタイルに明らかに引っ張られており、中途半端さは否めません。
ムステインの重責と休止
新体制と言っても、メンバーはまさにプロフェッショナルであり、パフォーマンスには全く問題がありません。
しかし、それが逆にこの作品の物足りなさでもあります。
ムステインは、このあと病気の影響でバンドを休止することになりますが、本作の内容やバンドが置かれていた状況と無関係とは思えません。
メガデスは一旦ここで、そのキャリアを終わらせることになります。
規格外バンド、進化の終焉
結果的に、その後すぐにメガデスは再開することになります。
しかし、復活後のメガデスは、ある意味開き直って「深化」する方向に進みます。
90年代から本作まで、単なるスラッシュメタルバンドの枠をはみ出すまでに「進化」した、規格外バンド・メガデスは、本作で完全に終了します。
終わりに
私は最初に、本作を素うどんと評価しました。
(かけうどんも可)
今回のレビューにあたり、久しぶりにじっくり聴き込みましたが、素うどんならではの旨みにも気付きました。
少なくとも、本作にはここだけにしかない楽曲があり、アルとジミーのテクニックを堪能できる唯一の作品でもあります。
問題作ではあっても、駄作ではないとして、レビューを終わります。
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