トトオです。
今回は、メガデス通算8枚目の作品、『リスク』をレビューします。
前回記事はコチラです。
本作のポイントは、以下の通りです。
- 『Risk(リスク)』(1999年発表)
- オリジナル盤・2004年リマスター盤 比較
- 全曲レビュー
- #1 インソムニア – Insomnia – 4:34
- #2 プリンス・オブ・ダークネス – Prince of Darkness – 6:25
- #3 エンター・ジ・アリーナ – Enter the Arena – 0:52
- #4 クラッシュ・エム – Crush ‘Em – 4:57
- #5 ブレッドライン – Breadline – 4:24
- #6 ザ・ドクター・イズ・コーリング – The Doctor Is Calling – 5:40
- #7 アイル・ビー・ゼア – I’ll Be There – 4:20
- #8 ワンダーラスト – Wanderlust – 5:22
- #9 エクスタシー – Ecstasy – 4:28
- #10 セヴン – Seven – 5:00
- #11 タイム:ザ・ビギニング – Time: The Beginning – 3:04
- #12 タイム:ジ・エンド – Time: The End – 2:28
- ボーナストラック(日本盤)
- ボーナストラック(リマスター盤)
- 採点
- 総評
- 終わりに
『Risk(リスク)』(1999年発表)
結論
先に端的に本作の結論を述べます。
本作は、デイヴ・ムステインとマーティ・フリードマンが作ったボン・ジョヴィ的作品、「メガ・ジョヴィ」とも言える作品です。
概要
プロデューサー
前作『クリプティック・ライティングス』が好評だったこともあり、今回もプロデューサーは引き続きダン・ハフです。
発表されたのは、1999年8月ですから、前作からのインターバルは2年ほどで、やや短いです。
ジミーの加入とマーティの最期
前作を最後に、10年ほど在籍したニック・メンザが抜けました。
この作品では、新たにジミー・デグラッソが参加しています。
ジミーはキャリアとしては、Y&Tが長いですね。
そう、「昨日と今日」こと「イエスタデイ・アンド・トゥデイ」です。
どちらかというと、ハードロック寄りのメタルバンドのキャリアですね。
ムステインのプロジェクトMD.45に参加した縁があり、ニックの後任として加入します。
他のメンバーは前作と同じですが、本作はマーティが参加した、最後のメガデス作品になります。
『リスク』というタイトル
この『リスク』というタイトルの裏話が面白いです。
メタリカのラーズ・ウルリッヒの、
「ムステインはもっと自分の音楽にリスクとったほうがええよ?」
と言う発言から、『リスク』と名付けられた、という逸話があります。
いや、これ当時聞いた時は、ちょっと衝撃的でしたね。ムステインが素直すぎて。
これまで、あれだけメタリカに恨み節を言い続けていたわけですから、
もし、ラーズになんか言われても、
「うっさいわボケ!俺は俺のメタルを貫くんじゃ!」
とか言いそうなのに、と思いました。
しかし今考えると、やっぱり、成功者メタリカに言われたら説得力ありますよねえ・・・。
メガデス・メタリカ年表
1997/11 Reload (METALLICA)
1999/8 Risk (MEGADETH)
メタリカは、『リロード』を97年11月に出しましたが、その後は2003年6月まで空いてしまいます。
このメタリカの空白の期間に、メガデスは本作ともう一作発表することになります。
オリジナル盤・2004年リマスター盤 比較
ジャケット
オリジナルのジャケットはこんな感じです。
これまでと比べると、劇的なイメチェンですね。ロゴも完全に変わりました。
これならカフェとかで「Now Playing」みたいにディスプレイしても違和感なさそうです。
マスコットのラトルヘッド君もいません。
リマスターは、このオリジナルから驚くほどデザインが変わりました。
こちらはいかついロゴが復活し、ラトルヘッド君も顔を見せています。
(わかります?)
音質
本作は1999年に発表されたにも関わらず、わずか5年後の2004年にリミックス・リマスターされています。
これまでのレビューでも記載した通り、メガデス作品のリマスターは、作品毎で評価が分かれます。
結論から言うと、本作はオリジナルの方が良いです。
但し、元々アレンジが多様な作品のため、リマスターでさらにアレンジを加えても、それほど大きな違いはないのかな、とも思います。
(前作は酷い改悪だったので)
収録曲比較
1999年国内盤ボーナストラック
『Duke Nukem Theme』一曲が、当時の国内盤ボーナスでした。
2004年リマスター盤特典
ボーナストラックが、三曲収録されています。
全曲レビュー
#1 インソムニア – Insomnia – 4:34
シングルカットされた一曲目から、度肝を抜かれます。
ゴリゴリのSEから始まり、加工されたディストーションのギターリフが炸裂します。
ド頭からムステインが歌いまくります。
オーケストレーションに、ボーカルサンプリングまで混ざって、メガデス版インダストリアル『ボヘミアン・ラプソディ』とでも言いましょうか。
しかし、やはりニックの抜けた穴は大きいです。
ジミーは素晴らしいプレイヤーですが、ドラミングの存在感ではニックが勝ります。
リマスターは中途半端にいじられていて、格好良さが削がれています。
#2 プリンス・オブ・ダークネス – Prince of Darkness – 6:25
二曲目ですが、イントロ(?)がやたら長い曲です。
キャッチーな歌に加えて、全体的にギターリフ抑え目の本作の中では、格好良いリフが目立つ曲です。
しかし、この曲をここに配置したことで、前半の流れが悪くなっています。
このあたり、ある意味実験的でもあり、あえてリスクを取ったのかもしれません。
#3 エンター・ジ・アリーナ – Enter the Arena – 0:52
#4 クラッシュ・エム – Crush ‘Em – 4:57
四曲目の『クラッシュ・エム』は、のちにNFLやプロレスのテーマソングになった楽曲です。
本作の一つ目のシングルカットになりました。
その前の三曲目には、前奏曲のような『エンター・ジ・アリーナ』がくっついています。
これはライブのオープニングSEの定番になりましたね。
この二曲だけ聴くと、スラッシュメタル四天王の肩書きからは想像できない、ポップメタルとでも言える、ノリの良い楽曲です。
デイヴィッド・エレフソンの、ディスコっぽいオクターブ奏法も印象的です。
#5 ブレッドライン – Breadline – 4:24
こちらもシングルカットの『ブレッドライン』です。
数あるメガデスの名曲の中でも、ボーカルメロディが最高に素晴らしい楽曲の一つです。
前作も歌が素晴らしい楽曲満載でしたが、この曲はメガデスという枠を取り払って聴いた方が、絶対良いですね。
メガデスの旧来ファン以外こそ聴くべきでしょう。
アレンジが控えめなところもハマっていて、文句の付けようがないです。
この曲の良さは、ジミーのドラムプレイあってこそという気もします。
#6 ザ・ドクター・イズ・コーリング – The Doctor Is Calling – 5:40
この辺りから中盤戦でしょうか。
ミドルテンポのアルペジオが美しい楽曲です。
思えば、『ユースアネイジア』あたりの中盤の曲は、ややメロディが弱い楽曲が多い印象でした。
本作は旧来のスタイルに縛られていないため、ストレートにメロディにこだわった曲が多いです。
そのため、ありがちなアルバム中盤の中弛みも少ないです。
#7 アイル・ビー・ゼア – I’ll Be There – 4:20
ハードロックバラードです。共にシンガロングしたくなる絶妙なサビが印象的です。
ボン・ジョヴィが、『I’ll Be There For You 2』として出しても、誰も文句言わないんじゃないでしょうか?
(言いすぎ?)
しかし、ここまでポップなメロディを書くセンスがあることに、衝撃を覚えますね。
歌詞では史上初、ムステインがファン(と家族)への感謝を込めたと言われています。
#8 ワンダーラスト – Wanderlust – 5:22
個人的には、『ブレッドライン』に次ぐお気に入りの楽曲です。
語りと歌が交互に入る展開ですが、サビでの歌唱力は凄まじく、ボーカリスト・ムステインの真骨頂です。
(2000年代以降は声質が変化していきます)
イエスを彷彿とさせるアコギのアルペジオもセンス抜群です。
短い曲ですが、後半スリリングな展開になっていて、ボン・ジョヴィにマーティが加入したみたいな楽曲です(何回ボン・ジョヴィ言うねん、と)。
#9 エクスタシー – Ecstasy – 4:28
ジミーのストレートなエイトビートと、ギターのバッキングが特徴的なハードロック曲です。
これもサビのメロディが素晴らしいですね。
本作中、マーティのギターが一番泣きまくっている楽曲です。
#10 セヴン – Seven – 5:00
後半戦です。
前曲『エクスタシー』まで、メガ・ジョヴィが続いたので、ここでちょっとシフトチェンジします。
ディストーションギターをフィーチャーしたメタル曲です。
予想外に展開していく楽曲で、後半リズムチェンジしてからが真骨頂です。
ジミーの跳ねたビートから、ロカビリーばりのロックンロールに突入し、尻上がりに盛り上げて終わります。
#11 タイム:ザ・ビギニング – Time: The Beginning – 3:04
ラスト二曲は組曲です。
『ビギニング』は、アコギとムステインの歌がフィーチャーされたバラードです。
このような美しいアルペジオを据えた楽曲は、2010年代以降のキコ・ルーレイロが参加したメガデス作品でも見られます。
しかし、ここまで毒っ気がない仕上がりは、この作品ならではでしょう。
#12 タイム:ジ・エンド – Time: The End – 2:28
続く『ジ・エンド』は、ミディアムテンポのグルーヴ感を強調したメタル曲です。
しかし、かなり短く3分足らずの楽曲で、あえてこの二曲を分けた意図は分かりかねます。
(曲数を増やしたかった?)
ラストのギターソロは、マーティ最後のメガデスの公式プレイになりますが、短いながらも本当に素晴らしいメロディとフレーズです。
やはり、メガデスのリードギタリストとしては、彼が歴代ナンバーワンでしたね。
ボーナストラック(日本盤)
#13 Duke Nukem Theme – 3:54
アメリカのビデオゲームのテーマソングです。
原曲はコレです。
メガデス版はこちら。
元々のリフやメロディはオリジナルのままで、基本ほぼ完コピですが、これがビビるほど格好良く仕上がってます。
こういうメタルっぽいアレンジやらせたら世界一のバンドですね。
ボーナストラック(リマスター盤)
#13 Insomnia (Jeff Balding mix) – 4:19
#14 Breadline (Jack Joseph Puig mix) – 4:28
#15 Crush ‘Em (Jock mix) – 5:10
リマスター盤のボーナスは、シングルカット三曲のリミックスバージョンです。
『インソムニア』はオリジナル盤のミックスですが、残り二曲はゴリゴリのリミックスです。
よほどのマニアでないと価値はないでしょう。
採点
1位『Breadline』
2位『Wanderlust』
3位『I’ll Be There』
4位『Prince of Darkness』
総評
「誰」が聴くべき作品か
冒頭に記載した通り、マーティの最終作は、メガデスが作ったボン・ジョヴィのアルバムといえるほど、過去のスタイルに縛られない、キャッチーな作品に仕上がっています。
本作はその特徴から、旧来のメガデスのファンではなく、それこそボン・ジョヴィやエアロスミスを好むような層にこそアピールすべきです。
しかし、残念ながら、新規ファンはそれほど掴めず、旧来のファンからは単に「緩い」作品にしか映らない、という結果になりました。
名曲が伝わりづらい曲順
冒頭の『インソムニア』は良い曲ですが、本作の他の楽曲と比べると明らかに浮いており、続く『プリンス・オブ・ダークネス』も二曲目の配置は微妙です。
その結果、本作のハイライトである中盤以降の楽曲の良さが、やや伝わりにくくなっているように感じます。
楽曲単位で見ると、メロディにこだわった良い曲が多いという意味では、過去最高レベルの完成度です。
黄金期の終焉
マーティは、本作で自分がメガデスでやれることを全てやり切って、満足して抜けたのではないでしょうか。
少なくとも、メンバー間の個性のぶつかり合いが作品の価値を高めたという意味では、本作がバンド史上の最高到達点だったと思います。
その後は、ムステインのワンマンバンドの色が強くなっていきます。
終わりに
本作はメガデスの黒歴史のような扱いを受けることが多いです。
確かにスラッシュメタルのメガデスはここにはいません。
しかし、スタイルに拘らずとも、楽曲のクオリティは最高レベルで、メガデスというバンドのレベルの高さを証明しています。
80年代からジュニアと作り上げてきた、メガデスというバンドは、次作で一旦の幕引きとなります。
コメント