トトオです。
今回は、メガデス通算7枚目のオリジナルアルバムである、『クリプティック・ライティングス』をレビューします。
前回記事はコチラです。
この記事は、以下の方にオススメです。
- 概要『Cryptic Writings(クリプティック・ライティングス)』(1997年発表)
- オリジナル盤・2004年リマスター盤 比較
- 全曲レビュー
- #1 トラスト – Trust – 5:11
- #2 オールモスト・オーネスト – Almost Honest – 4:02
- #3 ユーズ・ザ・マン – Use the Man – 4:35
- #4 マスターマインド – Mastermind – 3:48
- #5 ザ・ディスインテグレーターズ – The Disintegrators – 2:50
- #6 アイル・ゲット・イーヴン – I’ll Get Even – 4:23
- #7 シン – Sin – 3:06
- #8 ア・シークレット・プレイス – A Secret Place – 5:29
- #9 ハヴ・クール、ウィル・トラヴェル – Have Cool, Will Travel – 3:28
- #10 シーウルフ – She-Wolf – 3:36
- #11 ヴォーテックス – Vortex – 3:38
- #12 FFF – FFF – 2:38
- ボーナストラック(日本盤)
- ボーナストラック(リマスター盤)
- 採点
- 総評
- 終わりに
概要『Cryptic Writings(クリプティック・ライティングス)』(1997年発表)
概要
『キリング・イズ・マイ・ビジネス』から数えて、通算7枚目のオリジナルアルバムです。
前作『ユースアネイジア』から二年半後となる、97年6月に発表されました。黄金ラインナップになってからは、だいたい二年前後のインターバルで、安定的に作品を発表し続けていました。
ニックの解雇
ご存じのとおり、本作はドラムのニック・メンザの最終作になります。ニックが辞めた経緯に関しては、ニックの膝にできた腫瘍が原因でしたが、話によるとデイヴ・ムステインが一方的にニックをクビにしたようです。
ニックは歴代最長のドラマーとなりましたが、メガデスをメジャーにした立役者の一人は、間違いなくニックです。
ニックとムステインは90年代後半はやや関係性が悪くなったイメージもあり、もし病気がなかったとしても、いずれは袂を分かったのかもしれません。
プロデューサーの交代
マックス・ノーマンからダン・ハフに交代しました。
ダン・ハフはカントリーミュージックのプロデューサーとして著名ですが、プレイヤーとしても素晴らしく、マイケル・ジャクソンの作品でギターを弾いたりしています。
久しぶりに聴きましたが、やはり名曲です。
2000年代は、ボン・ジョヴィのプロデューサーもやってました。
2010年代は、テイラー・スウィフトまでプロデュースしていました。
つまり、ダン・ハフを採用するということは、よりポピュラー且つコマーシャルな方向性を求めたということです。
実際、本作はメガデス史上、最もキャッチーな作品に仕上がりました。
メガデス・メタリカ年表
1996/6 Load (METALLICA)
1997/6 Cryptic Writings (MEGADETH)
1997/11 Reload (METALLICA)
メガデスが前作『ユースアネイジア』を発表した後に、メタリカは『ロード』を発表しました。
その約一年後にメガデスから発表されたのが、本作『クリプティック・ライティングス』です。さらにこの約半年後に、メタリカは『リロード』を発表します。
96年から97年あたりは、メタルはすでに冬の時代だったように思いますが、90年代後半はメタリカもメガデスもトレンドを意識した作品に移行しました。
彼らは90年代前半に最も成功したメタルバンドですが、売れ続けようという意識の高さこそ、まさにプロフェッショナルと言えるでしょう。
オリジナル盤・2004年リマスター盤 比較
ジャケット
オリジナルとリマスターのデザインが違います。
オリジナルはグレー基調のデザインで、ロゴもそれまでのトゲトゲしいフォントではありません。アートワークも、ブードゥー教のエッセンスを取り入れて、クールです。パッと見、メタルバンドの作品に見えません。
リマスターは基本的なデザインは同じですが、ベースがブラックです。また、ロゴもいつものトゲトゲロゴを使用しています。正直、これだったら断然オリジナルの方が良いですね。
音質
メガデスのリマスター作品は、正確には「リマスター・リミックス」作品なのですが、本作はリマスター作品中、最もリミックス要素が強いです。
正直なところ、これほどマイナスのリミックスを施した作品は、聴いたことがありません。
オリジナルは素晴らしい音質且つ、絶妙なバランスで仕上げられていました。リミックスは完全にアレンジ過多であり、蛇足感が半端ではないです。
細かくは個別レビューで書きますが、本作に関しては、絶対にオリジナル盤をオススメします。
収録曲比較
1997年国内盤ボーナストラック
『One Thing』一曲が、当時の国内盤ボーナスでした。
2004年リマスター盤特典
ボーナストラックが、前作同様に四曲収録されています。
全曲レビュー
#1 トラスト – Trust – 5:11
ニックのドラムが最高に格好良いイントロです。
迫力あるオーケストラとベースで盛り上げてから、メインのギターリフが炸裂します。メガデスの全カタログ中ナンバーワンのアルバムオープニングだと思います。
この曲のポイントは、ベースとドラムの一音ずつを丁寧に作り込んで、ヘヴィなグルーヴを演出しているところです。純粋なメタル度は落ちていますが、これぞメガデスというカッコいいフレーズばかりで文句なしの名曲です。
ちなみに、リマスターはアレンジのやり過ぎで、この作品の持つ絶妙なバランスを壊しており、オススメしません。この曲は特に酷く、全体的にボヤッとしたミックスです。
#2 オールモスト・オーネスト – Almost Honest – 4:02
続く二曲目も一曲目に近い作りで、クールなギターリフとキャッチーなサビが素晴らしいです。
本作はジャケットやインナーからもわかるように、ブードゥー教の怪しげな雰囲気が全編に流れています。
これが、メタルの重苦しさを軽減し、グランジやオルタナなどのリスナーにも受け入れられる素地があります。
#3 ユーズ・ザ・マン – Use the Man – 4:35
冒頭の引用はザ・サーチャーズの『ピンと針』です。
かなり思い切ったアレンジで、楽曲の引用はメガデス史上初です。
この曲は本作でも一番アレンジの凝った楽曲で、インテリクチュアルスラッシュメタルなメガデスのストイックさは微塵もないです。
本作のムステインの歌は、同時期にメタリカのジェイムズ・ヘットフィールドに近い進化を遂げています。本来の個性を上手く活かしつつ、しっかりと歌えるボーカリストに仕上がっています。
#4 マスターマインド – Mastermind – 3:48
頭三曲凄いのが並んだので、ここで一息です。
ギターリフはやはりムステインっぽい、フックが効いたものですが、ストレートです。
本来なら、ここらで速めの一曲を入れそうですが、従来のファン以外へのアピールを重視した結果、ここは一旦休憩となったのでしょう。
#5 ザ・ディスインテグレーターズ – The Disintegrators – 2:50
ようやくここにきて、ストレートなスラッシュ曲です。
原曲の1.3倍速ぐらいで演奏していて、凄まじくアグレッシブです。
私と同世代(アラフォー)くらいの関西人は、この曲を聴くと「吉本超合金」という懐かしい番組を思い出すかもしれません。
こういうストレートな曲を聴くと、いかにニックが素晴らしかったか痛感します。メガデスで彼以上にバンドに貢献したドラマーはいませんね。
#6 アイル・ゲット・イーヴン – I’ll Get Even – 4:23
既述のとおり、トライバルな雰囲気を持つ本作ですが、そのカラーが強く押し出された楽曲です。
マーティのセンス抜群のギターフレーズが満載です。楽曲自体のポップ嗜好は、マーティの影響が大きかったということですが、この曲はスラッシュメタルどころか、メタルですらないほどのポップさです。
#7 シン – Sin – 3:06
本作では一番地味な曲でしょうか。
個人的には、この辺にもっとテクニカルで尖った楽曲があると、さらにアルバムのメリハリがよくなったかもしれない、などと贅沢なことを考えます。
中盤の歌の部分は、次作の『クラッシュ・エム』の原型のようです。
#8 ア・シークレット・プレイス – A Secret Place – 5:29
タイトルからも想像つくように、オリエンタルな怪しい雰囲気のアレンジです。特にサビが良い曲です。
原曲はアレンジが絶妙で、メタルとポップのギリギリの線を攻めたように思います。リマスターは、やはりさらに演出を重ねた形になっており、特にコーラスはやりすぎで魅力減です。
#9 ハヴ・クール、ウィル・トラヴェル – Have Cool, Will Travel – 3:28
前作にもありましたが、ブルースハープを使ったブルージーな一曲です。
この曲も、次作の『リスク』の布石となるような、これまでのメガデスのカラーにはない攻めた曲ですが、楽曲アレンジはシャープで、メガデスのバンド名に恥じない楽曲です。
#10 シーウルフ – She-Wolf – 3:36
本作随一の人気曲です。
ニックが叩いている動画は、結構珍しいです。
特に際立つのは、ニックとデイヴィッド・エレフソンの大迫力のコンビネーションです。ギターはシンプルでもエッジィなディストーションで、最後のツインリードまで曲を上げまくります。
4分にも満たない短い楽曲ですが、メタルの格好良さが何もかも入っていて、メガデス自身でもこれ以上のものは後にも先にもないです。
黄金ラインナップのメンバーだからこそ作り上げた、究極の一曲でしょう。
ちなみに、リマスターはコーラスを強調して、かなりダサくなってしまいました。
#11 ヴォーテックス – Vortex – 3:38
オーラス一個前です。
『シーウルフ』からこの曲を含む、最後の『FFF』までの三曲は、本作中では早い部類の曲になります。
そうやって見ると、アルバム全体の構成が面白く、
中盤:グルーヴ重視の実験的な曲
後半:最高スピードで駆け抜ける
という感じです。
この構成はやはり、プロデューサーの慧眼ではないでしょうか。
#12 FFF – FFF – 2:38
本編最終曲です。
当時から物議を醸した楽曲ですが、メタリカの『モーターブレス』と同じリフです。
比較動画までありました。
それぞれの楽曲が作られた時代が大きく異なりますが、どちらの曲も格好良いです。
メタリカはリフの鋭さが楽曲の中心ですが、メガデスの楽曲は歌とギターソロの素晴らしさが目を引きます。
ちなみに、この曲を聴くと、マリリン・マンソンを思い出すのは私だけでしょうか?
ありがちと言えばありがちなコーラスですね。
ボーナストラック(日本盤)
#13 ワン・シング – One Thing – 4:38
当時の国内盤唯一のボートラです。
本編に入ってもおかしくない、クオリティの高い一曲です。
しかし、もし本編に入れるとなると、流れ的に不自然なので、ボーナス扱いは納得です。
本作の中でも一番キャッチーなサビを持つ曲で、相変わらずアウトテイクに良い曲が多いですね。
ボーナストラック(リマスター盤)
#13 トラスト (スパニッシュ・ヴァージョン) – Trust (Spanish version) – 5:12
サビと語りの部分だけスペイン語の『トラスト』です。
何も意識せず、普通の『トラスト』と思って聴くと、違和感が強烈です。
ムステインは、『ア・トゥー・ル・モンド』ではフランス語で歌ったり、このあたり発想がユニークです。ラテン系の国はメタラーが多いイメージなので、スペイン語版は、結構需要があるかもしれません。
#14 イーヴル・ザッツ・ウィシン (ボーナス・トラック) – Evil That’s Within (alternative version of Sin) – 3:22
『シン』のバージョン違いです。
歌詞やギターソロなど、アレンジがかなり異なります。
#15 ヴォーテックス (オルタネイト・ヴァージョン) – Vortex (alternative version) – 3:30
こちらは『ヴォーテックス』のバージョン違いです。デモとは言わず、バージョン違いというのは、何か意図があるのでしょうか?
ややテンポを落とし、チューニングも落としているようで、グルーヴ感がさらに強調されています。
#16 ブルプリック – Bullprick (alternative version of FFF) – 2:47
『FFF』のバージョン違いです。
オリジナルの方が格好良いですね。歌詞が違いますが、よほどのマニア以外には需要はなさそうです。
採点
1位『She-Wolf』
2位『Trust』
3位『Almost Honest』
4位『FFF』
総評
本作はプロデューサーを変えて、より幅広い層に受け入れられる作品として、製作されました。
メガデスが得意とするエッジの効いたリフや、リズム隊のグルーヴ感は、うまくバランスを取って残した結果、彼ら以外には作り得ない超高品質のメタル作品となりました。
ヴードゥーやオーケストレーションなどの、味付けもセンス抜群です。このアレンジのおかげで、メタル特有の「ダサさ」を削ぎ落しながら、持ち味であるスラッシュメタルのエッセンスは残しています。
既述の通り、リマスターは完全に演出過多です。オリジナルの素晴らしいアレンジを台無しにしています。
終わりに
本作を最後に、ニックがバンドを去ります。四作続いた黄金ラインナップはここまでです。次作からメガデスは苦難の道が始まります。
実際のところ、メタリカとメガデスはよく比較され、メタリカが勝者として認識されます。これはセールスや知名度の面で明らかです。
しかし、私はこの作品に限っては、明らかにこの時期のメタリカより上回っていると感じます。
元々プレイヤーとしてのスキルはメタリカよりも上ですが、本作は、メガデスでしか作り得ない、ある種メインストリームメタルの完成系と言って良い作品です。他どこを探しても、これほどの「メタル」作品はありません。
メガデスはこの後、メンバーが頻繁に入れ替わりながらも、作品は作り続けます。しかし、地上一格好良いメタルバンド・メガデスは、この時がピークだったように思います。
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